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「でさ、その主人公が実は最強で」
「また最強かよ」
「結局それかよ」
「いやいや、ただ最強ってわけじゃねぇよ。いろいろと制限があってさ」
「わかったわかった、読むから。ネタバレはすんなよ」
男子生徒三人が和気藹々とライトノベル談義に耽っている中、私は彼らに聞えないようこっそりと、声を出さないように小さく溜め息を吐いた。
ここは文芸部室。今は放課後の部活動時間。だけど私は、そろそろ帰宅することを決め、おもむろに席を立った。
「あ、帰るんすか、香織先輩」
呼び止めるのは、一年生男子の春日。細身だけれど体格は良く、一見するとテニス部にでも入っていそうに見える爽やか系。初対面の日から下の名前で呼んでくるような軽いところが苦手。
「うん、ごめん。鍵お願い」
「うっす。了解っす」
敬礼しながら元気良く返事をするのは、一年生男子の三浦。中肉中背で眼鏡を掛け、文芸部らしい容姿。いちいち言動が暑苦しいところが苦手。
「どうぞ、先輩」
大仰に膝をつき私の鞄を差し出すのは、一年生男子の坂之上。ノッポで眼鏡で髪が長め。
「ありがとう。でも別に鞄くらい自分で取るから」
「いえ、俺の方が先輩よりも鞄に近い位置にいましたので。それに一度立ち上がった先輩がまた腰を屈めて鞄を拾うのは非効率です。暇な後輩がそこにいるのですから遠慮なく使ってください」
理屈屋でいちいち紳士ぶろうとするところが苦手。
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