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「これは?」
「今来てたの。消印は十二月二十五日だから、あの日に出したのよ。もしかしたら」
遺書かもしれない、茜はその言葉を飲み込んだ。封筒の表書きには桜井葵様、そして、差出人の欄には速水啓太と書かれている。自殺したその日に書かれた手紙、そこには遺書が書かれているのではないかと考えるのは自然な行為だ。しかし、茜はその言葉を口にはできなかった。葵の事を思ったのはもちろんだが、彼女は啓太が自殺したとは考えていないのだ。遺書など届くはずは無い、と否定するべき立場なのだ。しかし、現に郵便が届いている。彼女は内容が気になるのか、葵が封を切ることを期待していたが、残念ながら、葵はその封筒を手に持つと、自分の部屋へと走り出す。
「どうしたんだ、いったい?」
突然のことに驚きながら政志が尋ねる。
「啓太から手紙が来ていたのよ。それも、あの日に出した手紙が」
葵はそんな二人の会話を背中で聞きながら、部屋の扉を閉めた。
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