対決

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 葵は自分の部屋に戻ると、机の鍵がかけられた引き出しから封書を一通取り出す。先ほど読み、しまったばかりの速水啓太から届いた手紙だ。その内容は速水啓太から桜井葵に向けられた想いの発露、いわゆるラブレターだった。葵は何度もその手紙を読み返していた。本来なら、そこに記された啓太の想いは葵にとってこそばゆく、照れや恥ずかしさと共に喜色を生み出すはずだった。しかし実際は、彼女はそれを読み返すたびに嗚咽を漏らしていたのだが、今回は違った。彼女は何か思い詰めた表情でその文面を追っていく。そして最後まで読み終えたのか、丁寧に畳むと、封筒に戻し、外套のポケットにしまう。そして、窓の外に視線を向けた。
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