対決

13/18
前へ
/117ページ
次へ
「葵、どこにいるのよ」  茜は不安そうにつぶやく。目線は街のあちこちをさまよい、葵の姿を探すが、全く見つかりそうも無かった。  早足で移動しながら、たまたま目に付いた公衆電話に恨めしそうな視線を送る。葵は携帯電話を持っていない。茜もそうだ。彼女たちの年代で、携帯電話を所持していないというのはかなり珍しいが、葵も茜も高校に入るまで携帯電話を持たせないとする両親の方針に、多少の不満こそあれ、文句を言ったことは無かった。それでも今この瞬間は両親の方針が恨めしく感じた。しかし、持っていない物を求めても意味が無い。茜は思考をフル回転させる。葵に事件の犯人が分かったのだとするのなら、自分に分からないはずは無いのだと言い聞かせる。何せ、葵の持っている情報と自分の持っている情報に大きな違いは無い。それどころか自分の方が多くの情報を持っている可能性だってあるのだ。それなのに、葵に分かって自分に分からないはずは無い。そうで無ければ、葵は、それに犯人に返り討ちに遭う可能性もある、その可能性に思い至ったとき、茜はぞっとした。幼なじみの啓太に続いて、葵を失ったら、正気でいられる自信が無かった。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

114人が本棚に入れています
本棚に追加