雪の足跡

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 殺された啓太をキリストとするなら、あのとき集まった人たちの中にそれを裏切ったユダがいるということなのだ。そして、それは今児玉刑事に肩を掴まれ、身じろぎ一つ取れないでいるその男なのだ。 「まず最初に、啓太君が眠気に負けて部屋を出ました。今にして思うと、風邪薬に入っていた睡眠薬の影響を受けたのかもしれません。啓太君がいなくなったことで、パーティーはお開きの方向に流れました。まず二人が帰ります。次に一人、続いて二人、この時点で私たちは啓太君の様子を見に行くことにしました。その時、啓太君は普通に眠っていました。といっても私は確認していませんが、二人の人間が、そのうちの一人は茜ちゃんが見てくるように指示した人間が、確認しているのでそこは間違いが無いでしょう」  葵は厳しい表情のまま、淡々と言葉を続ける。内心の怒りを必死で押さえつけているのだろう、茜にはそう思えて仕方なかった。 「つまり、五人が帰った時点では、啓太君は事件現場の離れでは無く、まだ家の中にいたと言うことです」  これはその場にいる誰にとっても言わずもがなな確認だった。だからこそ、彼は自殺だという結論に達したのだから。
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