第1章

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長屋住まいで、お仕事も文の代書くらいしかない旦那さまが、どうやって家計をやり繰りしているのか、私にはわかりません。 たくさんの本に囲まれているのがお好きなようです。 単にお片づけができないだけかもしれませんが。 難しそうな本の間に、子ども向けの絵双紙や、人情本、滑稽本もいっぱいあるのを見つけました。 それらはとても面白そうでしたが、私が何よりも気になったのは、本の間に乱雑に挟まれたしわくちゃの千字文でした。 ひどい扱いだけれど、これまでに見たことのない、見事な字だと思えました。 「そいつが読めるか」 旦那さまは、少しだけおどろいて私を見ました。 「はい、途中までですけれど。手習いにもなかなか行けなくなって……」 「ここにある本は好きに読むがいい。学びたければ教えよう。まあ、無理にとは言わんがな」 お月謝も払えないからとお断りしましたが、旦那さまはこともなげに仰いました。 「要らん。お前は充分に働いてくれている」
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