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「この箱に鍵が付いている」
弥彦の言う通り、箱には数字を回して合わせるタイプの錠前が付いていた。ダイヤルは三桁だ。
「適当に合わせてみたけどやっぱダメだな。開かねえや」
「どっかに数字が書いてあればいいんだけど、あるわけないよね」
久美子が箱の側面をキョロキョロと見て回るが、やはり数字は書いていない。
「あとは黒板の」
「うわっ」
志郎の上げた声に、二人は何ごとかと振り返る。志郎は教室の真ん中で、机から後退り、引きつった顔をしていた。志郎の視線の先には、本がある。机の上に広げて置いてあった。
「どうした?」
弥彦と久美子が志郎にゆっくりと近付く。志郎のおかしな態度を二人は訝しげに見た。
「そ、その本に……」
志郎は机の上の本を震えながら指差す。
「その本がどうかしたのか?」
「その本に僕達のことが書かれている」
「は?」
とんでもない手がかりだった。だが、それにしては志郎の態度がおかしい。志郎は手がかりになるその本を、嫌悪の表情で見ている。
「凄い! やっと自分が誰だか分かるのね!」
志郎のおかしさよりも、自分のことが分かる嬉しさの方が上回ったようで、久美子は本に飛び付いた。
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