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「ちょっと待てよ。何で記憶がないのにそれが自分のことだと分かるんだ?」
弥彦は久美子と違い、すぐには本に近付かない。本よりもまず志郎に確認を取る。
「読めば分かるよ」
志郎はそれ以上、答えなかった。
「何これ……」
先に本を読んだ久美子は、口に手をやり絶句していた。本を久美子から受け取り、続けて弥彦も読む。そこには、確かに三人のことが書かれていた。
「何で書けんだよ……」
弥彦は思わず本から顔を引く。
三人の教室での行動。それがこの本に書かれている内容だった。
『三人は教室の中を探索し始めた。弥彦は教室前方、黒板周りや教卓の上の箱を調べ、志郎は全ての机の中を覗き込み、久美子は後方の黒板周りや掃除用具入れを調べた。』
本の文章はここで止まっている。それより後のページは全て真っ白だった。
「俺らが教室を調べ始めたところか……。弥彦に志郎に久美子。これが俺らの名前か……」
弥彦は持っていた本を机の上に放った。開き癖が付いているのか、机の上に載った途端、書かれている最後のページが勝手に開く。
三人とも本から目を逸らした。本に付いて話すでもなく、しばらく黙っていたが、最初に志郎が動いた。まだ調べていなかった残りの机を調べ始める。弥彦と久美子も無言のまま本から離れ、教卓の箱のもとに戻った。
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