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いったん言葉を切り、久美子は顔を上げて弥彦と志郎を見た。
「私は誰?」
弥彦と志郎はただ黙って久美子を見ていた。何も返すことが出来なかった。
「さっきから必死に思い出そうとしているのに、全然分からない。名前も何もかも。何も分からない。何も覚えてないの」
短い髪を掴み、久美子は嫌々をするように首を振りつつ、すがるような目で弥彦と志郎を見た。
「私は誰?」
二人はその問いに答えなかった。その代わり、志郎がポツリと言葉をこぼす。
「記憶喪失」
「記憶喪失だな」
弥彦も志郎の言葉を繰り返した。そして、目線を落としたまま、嫌な事実を口にする。
「俺もだ。何も覚えていない」
「僕も」
三人が記憶喪失。
何故こんなことになったのか知る者は誰もいない。
三人の間に冷たい空気が流れる。寒気を感じたのか、久美子は腕を擦った。
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