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「……とりあえず」
沈黙を破るように切り出した志郎を、弥彦と久美子がうろんな目で見る。志郎は眼鏡を上げ直して言葉を続けた。
「今分かることを集めよう」
「今分かること?」
久美子が聞き返す。
「そう。何でもいいから分かること」
「例えば、制服を着ている私達はたぶん学生……とか?」
「学生なら、こんな真っ暗になるまで家に帰らなければ、誰かが探していてくれているはずだな」
弥彦も思い付いたことを言ってみる。
「あなた達は同じデザインの制服だから、きっと同じ学校の生徒だよね。もし私もそうなら同じ学校から三人も失踪していて、きっとかなりの騒ぎになってる」
「真面目そうなお前ら二人なら家族もすぐに探してくれそうだな」
話しているうちに落ち着いたのか、三人の目は輝きを取り戻していた。
「あとは……。そういえば、今は何時だろう?」
全員が教室の時計を見る。時計は教室前方の壁、黒板の右上の方にあった。
「一時……二十五分? にしては短針の位置がおかしくない?」
短針はぴったり一時を差していた。長針は二十五分を示しているのだから、久美子の言う通り短針は一時と二時の間あたりを差していなければおかしい。
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