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「何か嫌な思い出でも?」 これを思い出と呼んでいいのか。 あの日、事件に巻き込まれた時、突然背後から薬を嗅がされた。 いきなりだった。だから何が何だかわからなくてろくな抵抗もできなかった。 フッ、と意識が無くなる直前、最後に見たのが満開の桜の花だった。 一つの事件の下で、桜の木はその日もただ静かに風に吹かれて咲いていた。 俺はその時の桜を、今でも鮮明に覚えている。 憎らしいほど、綺麗な桜だった。 そうまるで、今目の前にある桜の木と同じくらい。それは立派な桜だった。
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