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「……お前、寒くないか?」 記憶の波にのまれそうになる前に、俺は気持ちを切り替えた。 あの日のことを思い出すと、いつも際限のない暗闇に落ちていきそうになる。 他人の前で思い出すようなことじゃない。 「寒くないですよ。篠宮さんは寒い?」 「まぁ、ちょっと」 まだ春先だ。昼間はちょうどいいくらいの気温になったが、朝と夜はやっぱりそれなりに冷える。 ビールを飲んだから余計かもしれない。 「じゃあ、俺の隣にきますか?」 「は?もう来てるじゃん」 「もっと近くに」 ってことは、なんだ、二人で密着して体温をわけあうとか、そういうことを言いたいのか?
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