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「あとはもう、散るだけですね」
「……そうだな。桜の寿命は短いから」
だから人は、桜の花を見て儚さを感じるのだろう。
ふわりと小さな花を咲かせ、静かに散っていく。
今まさにひらりと舞った桜の花びらが、風に吹かれどこかへ散っていった。
「この桜が散っても、また会ってくれますか?」
いよいよおかしなことを言う奴だ。
桜が散ろうが散るまいが、同じ会社に勤める限りは嫌でも顔を合わせるというのに。
柏木が言いたいのはそういうことじゃないような気もしたが、俺は頷いた。
柏木は微笑んだ。
優しく目を細め、「ありがとう」と言った。
今にも消えてしまうんじゃないか。
そんな馬鹿げたことを、ちらりと思った。
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