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純は岩手も好きだが、心の底で密かに都会に憧れを持っていた。
なんでかと聞かれると言葉に詰まるが、なんとなく、本当になんとなく東京への憧れがあった。
「…あ、純かっこいいからスカウトとかされちゃうかもよ~?」
「えっ!僕なんかダメですよ…それに、目立つのはあまり得意ではないですし」
「えぇーもったいない!」
本当に純はかっこいいから、モデルでもアイドルでもなれそうなのに。
隣を歩く彼の横顔を見つめながら歩みを進めた。
「純ちゃん!こんにちはぁ」
しばらく歩いていると、前から来たおばさんが純に話しかけてきて、俺たちはその場に立ち止まる。
「あ、水谷さん。こんにちは。いい天気ですね」
「そうねぇ~!…も~、純ちゃんは本当にいい子ねぇ。こんな息子がほしかったわ!…あら……こちらの子は?」
おばさんの視線が俺に向いた。
なんとなくさっきのことを思い出して身構えてしまう。
「あ、えっと、…………。」
どうしよう…言葉が出ない……
しばらく俺がもごもごしていると、純がゆっくりと俺の肩を包み込むように支えてきた。
大丈夫?とでも言うような表情で、俺の顔を覗き込む。
あ…ちょっと、落ち着いたかも…
ほ、と俺が息をつくと、純は肩から手を離し、おばさんの方へ体を向けた。
「彼は柚さんのお孫さんですよ。」
「あら…!うそぉ、ほんと!?もしかして陽平くん?おっきくなったわねぇ~!おばさんのこと覚えてる!?いつも柚さんちに枝豆持ってってたのよ~」
「…あ、枝豆のおばさん…?覚えてます!」
なんだ、知ってる人だった。
このおばさんは、いつもおばあちゃんと長い長ーいお喋りをしたあと、畑で育てているらしい枝豆を置いて帰るのだ。
「やだぁ!覚えててくれたのね!どうしましょう純ちゃん嬉しい!」
おそらく俺のおばあちゃんと同じような年の枝豆のおばさんは、純の肩を嬉しそうにバシバシと叩いた。
あ、純苦笑いしながら痛いの耐えてる…
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