夏の始まり

11/14
前へ
/14ページ
次へ
純は岩手も好きだが、心の底で密かに都会に憧れを持っていた。 なんでかと聞かれると言葉に詰まるが、なんとなく、本当になんとなく東京への憧れがあった。 「…あ、純かっこいいからスカウトとかされちゃうかもよ~?」 「えっ!僕なんかダメですよ…それに、目立つのはあまり得意ではないですし」 「えぇーもったいない!」 本当に純はかっこいいから、モデルでもアイドルでもなれそうなのに。 隣を歩く彼の横顔を見つめながら歩みを進めた。 「純ちゃん!こんにちはぁ」 しばらく歩いていると、前から来たおばさんが純に話しかけてきて、俺たちはその場に立ち止まる。 「あ、水谷さん。こんにちは。いい天気ですね」 「そうねぇ~!…も~、純ちゃんは本当にいい子ねぇ。こんな息子がほしかったわ!…あら……こちらの子は?」 おばさんの視線が俺に向いた。 なんとなくさっきのことを思い出して身構えてしまう。 「あ、えっと、…………。」 どうしよう…言葉が出ない…… しばらく俺がもごもごしていると、純がゆっくりと俺の肩を包み込むように支えてきた。 大丈夫?とでも言うような表情で、俺の顔を覗き込む。 あ…ちょっと、落ち着いたかも… ほ、と俺が息をつくと、純は肩から手を離し、おばさんの方へ体を向けた。 「彼は柚さんのお孫さんですよ。」 「あら…!うそぉ、ほんと!?もしかして陽平くん?おっきくなったわねぇ~!おばさんのこと覚えてる!?いつも柚さんちに枝豆持ってってたのよ~」 「…あ、枝豆のおばさん…?覚えてます!」 なんだ、知ってる人だった。 このおばさんは、いつもおばあちゃんと長い長ーいお喋りをしたあと、畑で育てているらしい枝豆を置いて帰るのだ。 「やだぁ!覚えててくれたのね!どうしましょう純ちゃん嬉しい!」 おそらく俺のおばあちゃんと同じような年の枝豆のおばさんは、純の肩を嬉しそうにバシバシと叩いた。 あ、純苦笑いしながら痛いの耐えてる…
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加