夏の始まり

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「あ、あの、」 あなたがお手伝いさん?と言いかけた瞬間、おばさんはニコッと微笑みながら口を開いた。 「…あなた可愛いわねぇ。中学生?髪もサラサラね、触ってもいいかしら?」 …………? これはお手伝いさんなんかじゃない… ただのおばさんだ…………! いや、もっと言うとちょっと変な人なのかもしれない。 人通りは決して少なくないのに、人目もはばからず「よっこいしょ」と言って俺の横にピッタリと座った。 「え、な、なんですか。それに俺高校生です」 そう言うと、おばさんは顔をパァッと輝かせ、体ごとこっちを向いた。 「あらぁ!やだわぁ~…高校生だったのね!可愛らしいから中学生かと思ったじゃない。……あら…まぁ、綺麗な瞳ね…色素が薄いのかしら?透き通っていて、とっても…」 おばさんは、両手で俺の顔や頭、腕や鎖骨のあたりをベタベタと触りまくる。 ちょっと、何これ… むり、知らない人に突然、こんな…! 「やめて、くださいって!!」 「え~?いいじゃないのぉ~。やだっ!ほっぺたもスベスベね~!可愛いわぁ」 今度はおばさんが容赦無く俺の顔のパーツを順番に手でなぞっていく。 きもちわるい…! 道行く人は、おばさんが馴れ馴れしすぎて、親子か何かと思っているらしく、クスクス笑いながら通り過ぎて行ってしまう。 その上おばさんが話してる声は小さくて、こんなにおかしいことを言ってることに誰も気が付かない。 これ、警察呼んだ方がいいのかな?いや、そもそもおばさんに邪魔されていてスマホに手が出せない。 …本当に嫌だ。 だからと言って力ずくで押し返しておばさんに騒がれたら俺が捕まるんじゃないか、とか… 怪我でもさせたらそれこそ俺が…
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