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 相撲部の渡部が唸(うな)るようにいった。 「優勝したら、なにか賞品はないのか」  生徒全員の目が最も裕福なカザンに集まった。近衛(このえ)四家の御曹司(おんぞうし)はこういう周囲の期待には、つねに全力で応(こた)えてきた。一瞬考えこんだが、席を立つと廊下に出た。ロッカーの鍵を開ける金属音がする。  目も彩(あや)な錦糸(きんし)の袋をもって戻ってきた。紫の絹(きぬ)の組紐(くみひも)を解き、なかから朱鞘(しゅざや)の短刀をとりだした。 「おれが賞品をだそう。不世出の名工と謳(うた)われた3代目国兼(くにかね)の脇差(わきざし)で、銘(めい)は『雨月(うげつ)』。ひとたび抜けば、雨雲を斬り裂き、名月を呼ぶといわれた名刀だ。うちの家になければ、日乃元の国宝に指定されるのは間違いない」
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