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 ちいさな頃、タツオも東園寺家の宝物庫で見かけたことがある気がした。あのときは絶対にふれてはいけないと教えられたものだ。一振りで家が買えるほど値打ちのある刀だが、これに手をかけてはいけない。 「でも、それは……」 「うるさいぞ、タツオ」  カザンが睨(にら)みつけてくる。タツオはその刀がなぜ東園寺家の門外不出の秘宝とされていたのか知っていた。持つ者を不幸にする呪(のろ)われた刀である。雨交じりの闇夜に、使用人の下級武士と駆(か)け落ちしようとした姫を捜すために、父である領主が「雨月」を抜いた。その刹那(せつな)、雲は両断され、満月が空を明るく満たした。たちまち、二人は発見され、使用人は斬首。姫は数日後、谷に身を投げて自殺したという。  カザンの目は血走っていた。頭上に高く呪われた名刀をかざして叫んだ。 「この刀が賞品なら、文句ないだろう。どうだ、みんな」
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