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『……亜理子ちゃん…』
歳を感じさせない眉目秀麗な容貌とは裏腹に、嘗めるような視線をじろじろと浴びせてくる男はー……
水商売やってる母親の、恋人。
時折、こうした男達が私の外見につられて色目を使うのが鬱陶しくて堪らないけれどー……
今更、どうしようないの。
でもこれ以上母親の恨みを買いたくなくて、男ー…御堂啓介の横を擦り抜け、置いてあった鞄を持つと玄関に向かう。
『私、大学行ってきます。あなたは早く母の元に戻った方がいいですよ?』
『え、ちょっ…亜理子ちゃん、待って。俺、話がー……』
『いや、触らないで』
伸ばされた男の手をピシャリと跳ね退け、私は懸命に吐き気を抑えつつアパートの外に飛び出した。
さっきと打って変わった新鮮な空気に胸が落ち着き、はぁと息を吐き出す。
思わず地面にしゃがみ込みたくなるのを何とか堪えて、傍にあった電柱に体を寄りかけた。
……あぁ、どうしよう。
……こんな朝早く出てきちゃったけど、まだ大学やってない…。
(…コンビニで立ち読みでもして、時間潰すしかないかなぁ)
またキャバ嬢と間違えられて、酔っ払いから絡まれないようにしないと。
途方に暮れながらも、私は気だるく足を動かしたー……
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