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漆黒の髪と、同色の黒い眼差しがとても印象的ー……
誰もが美形と認める彼はどこかしら男臭い艶も醸し出し、周囲を釘づけにしていた。
それでも彼は知らん顔だー……
どれだけ自分の容姿が他人の目を集めるのか知っているくせに、関係ないとばかりにそっぽを向いてー……
冷たい顔。
ちっとも笑顔を見せない。
そんなクールさが堪らないと女達がキャーキャー騒ぐのを、私はずっと茅の外で見つめていたんだ。
『……一度、綾瀬君とゆっくりお喋りしてみたいなぁ…』
遠巻きにうっとり彼を眺めていた紗知が、夢見るようにピンク色の唇を動かす。
『…喋ってみればいいじゃん』
同じく離れた席からぼんやり彼に視線を注いで囁けば、そんなに簡単に言わないでよぉ!と頬を膨らませる紗知。
…あぁ、可愛い…。
やっぱり、彼女は物語の一途で健気な主人公タイプ。
『亜理子くらい美人だったら、自信持って話しかけられるんだけどなぁ…』
羨望の眼差しを浴びせられても、微苦笑を浮かべるしかないー……
何しろ紗知は、今までの私の恋人達を一人残らず魅了してきたんだから。
『ね、亜理子…』
しなやかな指先が私の髪に触れ、ぴくりと身を揺らすとー……笑顔の紗知と目が合った。
『亜理子は綾瀬君好きになっちゃ嫌だよ?』
約束ね!と愛らしい微笑みの呪縛に囚われるー……
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