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どこまでも拡がり、吸い込まれそうなブルーに浮かぶ入道雲。陽を反射してきらきらと光る葉から聞こえる、ジワジワ、ジワジワ。 蝉の声を聞くと、暑さは一層増すようで。 窓を開け放しても暑気は払えず、申し訳程度に置かれた扇風機は熱気をかき混ぜるだけでおまけに答案用紙を飛ばしてしまう。その度教師は気だるそうに用紙を拾い上げる。クーラーが欲しいと呟いた声にこくりと頷いて、答案を埋める作業に戻る。 ああ、皆暑さと思考で頭を沸騰させている。 答案を埋め終えた彼は、背中を丸めてシャーペンで机を叩く面々を眺めてくすりと笑う。汗で額に少ない前髪が張り付いた教師と目が合う。教師は苦笑を返し、口だけで「暑いな」と。 ジワジワ、コツコツ、カリカリ。 やる事の無くなり、ぼんやり遠くの空を見ている彼に、眠気がそろりと近付いてくる。うっかり眠って答案を涎と汗で汚すわけにはいかない。彼は手を挙げ教師を呼び、答案を渡すとすぐに浅い眠りに落ちた。 「だあっ!燃え尽きた!真っ白にな!」 「いて」 「おう響、起きたか!帰ろうぜ!」 いつの間にテストが終わったのか、前の席の生徒が手を振り上げ大きく背をそらす。その手が彼ーー大河響(おおかわひびき)の頭に直撃し、響は現実に引き戻された。 何か夢を見ていたが、現実に戻るとそれはすぐにぼやけて消えた。 「こら松山!ホームルーム飛ばして帰る気か!」 体を捻って教師に背を向け、響の頭をポンポン叩く松山涼(まつやまりょう)が教師に怒鳴られ唇を尖らせる。 涼は馬鹿だ。 声は大きいし、思考はすぐに口から漏れる。いつも落ち着きがなく、教師に叱られてすぐにしゅんと項垂れる背中がまるで子供のよう。 「あに笑ってんだよ響!」 「別に。大人しくしてないとまた怒鳴られるぞ」 くすくす、圧し殺した笑いが聞こえる。 ホームルームが終わりさぁ帰ろうと言うところで、まだくすくす笑うその人が響と涼の元を訪れる。 「相変わらず馬鹿だねぇ涼は」 「馬鹿女代表の海岡に言われたくねぇな!」 顔を合わせればこうして喧嘩ばかりしているこの二人は幼馴染みらしい。家も近所で幼稚園の頃からずっとクラスが一緒なんだそうな。
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