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幼馴染みなんて、本当にあるんだなぁ。
中学に上がる頃にこの地に越してきた響に、幼馴染みなんてものはない。幼い頃は幼稚園どころか小学校にだって行っていなかった。まわりは大人ばかりで、年頃の友人さえも。
それを嘆いた事もなかったし、響にとってそれは当たり前の事だった。
「そんな事言っちゃうんだー折角カラオケにでも行こうかなーって聖と話してたのになー」
「え。いやぁ誰が華様を馬鹿女だなんて。是非ご一緒させて下さい。お供に響をつけましょう!」
「ちょっと、オレ行くなんて一言も」
腕を組んで上から鼻を鳴らして涼を見下す海岡華(うみおかはな)にゴマをする涼はさらりと響を巻き込む。
それまで言い合う二人を静かに見ていた響は、突然自分を同じ土俵に上げられて顔をしかめる。
「いーじゃんどうせ暇なんだろ?それにほら、お前が一緒だと空閑ちゃんも喜ぶし」
「空閑が喜んでオレに何か得があんのかよ」
「うーん…」
涼は華の友人、空閑聖(くがひじり)に惚れているらしい。アピールする勇気のない涼は、ちょくちょく幼馴染みの華と親友の響を巻き込む。事に響は「眉目秀麗」らしく、大概のイベントには強制参加。
華は涼の扱いには慣れているようで、涼はいつも彼女の掌で遊ばれている。
「俺が喜ぶ!なんちゃって!」
「…」
なんちゃってとか、素で言っちゃうんだ。
響は前屈みで肩を震わせ机を何度も掌で打つ。背中を伸ばして深呼吸。
涼と華は彼の妙な行動に顔を見合わせことりと首を傾げる。
黙って見守っていると響は突然立ち上がり、鞄を肩に掛けて無言で教室のドアに向かう。
「響~?」
背中に受ける悲痛な声。
響は振り向いて少し笑う。
「行くんだろカラオケ。海岡、空閑は?」
涼はぱっと満面の笑みでおおはしゃぎ。まだどこのカラオケに行くとも聞いていないのに、先に行って部屋を確保するんだと、教室を飛び出して行ってしまった。
「ふ…おっかしーの」
「ひょっとして大河、さっきの笑ってたの?」
聖にメールを打っていた華が、微笑を漏らす響を見上げる。
「だってあいつ、馬鹿だろ?ほんと、飽きないよなぁ…」
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