3/7
前へ
/164ページ
次へ
幼馴染みなんて、本当にあるんだなぁ。 中学に上がる頃にこの地に越してきた響に、幼馴染みなんてものはない。幼い頃は幼稚園どころか小学校にだって行っていなかった。まわりは大人ばかりで、年頃の友人さえも。 それを嘆いた事もなかったし、響にとってそれは当たり前の事だった。 「そんな事言っちゃうんだー折角カラオケにでも行こうかなーって聖と話してたのになー」 「え。いやぁ誰が華様を馬鹿女だなんて。是非ご一緒させて下さい。お供に響をつけましょう!」 「ちょっと、オレ行くなんて一言も」 腕を組んで上から鼻を鳴らして涼を見下す海岡華(うみおかはな)にゴマをする涼はさらりと響を巻き込む。 それまで言い合う二人を静かに見ていた響は、突然自分を同じ土俵に上げられて顔をしかめる。 「いーじゃんどうせ暇なんだろ?それにほら、お前が一緒だと空閑ちゃんも喜ぶし」 「空閑が喜んでオレに何か得があんのかよ」 「うーん…」 涼は華の友人、空閑聖(くがひじり)に惚れているらしい。アピールする勇気のない涼は、ちょくちょく幼馴染みの華と親友の響を巻き込む。事に響は「眉目秀麗」らしく、大概のイベントには強制参加。 華は涼の扱いには慣れているようで、涼はいつも彼女の掌で遊ばれている。 「俺が喜ぶ!なんちゃって!」 「…」 なんちゃってとか、素で言っちゃうんだ。 響は前屈みで肩を震わせ机を何度も掌で打つ。背中を伸ばして深呼吸。 涼と華は彼の妙な行動に顔を見合わせことりと首を傾げる。 黙って見守っていると響は突然立ち上がり、鞄を肩に掛けて無言で教室のドアに向かう。 「響~?」 背中に受ける悲痛な声。 響は振り向いて少し笑う。 「行くんだろカラオケ。海岡、空閑は?」 涼はぱっと満面の笑みでおおはしゃぎ。まだどこのカラオケに行くとも聞いていないのに、先に行って部屋を確保するんだと、教室を飛び出して行ってしまった。 「ふ…おっかしーの」 「ひょっとして大河、さっきの笑ってたの?」 聖にメールを打っていた華が、微笑を漏らす響を見上げる。 「だってあいつ、馬鹿だろ?ほんと、飽きないよなぁ…」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

465人が本棚に入れています
本棚に追加