第1章

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「英さん、ちょっといい?」 皆がカフェの計画や準備で忙しい中、私は毎日放課後は直帰していた。 理由はオマケ作成担当が私一人だけだったからだ。 そんな放課後、すぐに声をかけてきたのは柴門君だった。 少し焦った様子で、声まで潜めて。 何事かと思い、非常階段脇まで促されるままついて行った。 「ライブで、マイクにぶつけて折れちゃったんだよね…ゴメン!」 頭を下げ、勢いよく差し出されたのは、預けていたリング。 クロスのメインモチーフに、指の付け根に向かって蛇の尻尾が、指先に向かって蛇の頭が伸びているデザインにした。 動きの邪魔にならないように蛇だけ指の甲に這う形にしたから、多少指を曲げても問題無い。 もちろん、樹脂粘土でそんなの一個一個作ってられないから、リングだけの特別デザイン。 彫金と違って、やっぱり強度がかなり落ちるから、仕方の無い事だけど、事前にそこまで説明してなかった。 「いや、全然良いよ。また作って来るし。樹脂粘土と違って乾かすわけじゃないから一晩で何とかなるし。これ、預かるね?」 「借りてんのに、ごめんな?」 「パクられたら嫌だけど、使ってて壊れちゃうのは仕方ないよ。デザイン重視で作ってるし、普通の銀の指輪より強度低いんだよね。先に言ってなくてこっちこそ、ごめんね?」 私の言葉にホッとした様子の柴門君は、少し垂れてる目尻を更に下げて、ならもっと大事に扱うねと言ってくれた。 モテそうだなーなんて、思った。 「忙しいのにごめん…そういえば、どれくらい出来た?」 「完成品は10個かな。今乾かしてるパーツが50個」 「そっか、400個だと…」 「多分、間に合うと思うよ」 指を折って数えようとする柴門君に笑って言うと、彼は少し恥ずかしそうに笑った。 その笑顔がチャラそうだなって印象と違って純粋に見えて、不覚にもキュンとしてしまう。 イケメンは存在が凶器だわ。
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