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口元を指先で覆って、柴門くんは私から顔を逸らした。
彼は”クラスの男子”だ。
つまり、私が通常ならあまり喋る事の無い人。
夏休み前までは、確かにそうだった。
変わったのは、夏休み少し前の事。
私は大人しく見られがちな普通の女子だ。
友達に一人ばかりちょっと明るくて少し派手な子がいるけれど、
他は私のように制服をほぼ規定通りに着て、
スカートの丈を先生に怒られない程度に少し上げる。
男子との交流の少ない普通より少しだけ地味な部類の女子だ。
そんな私を含め、様々なタイプの生徒が協力し合わなければならないのが、学祭。
特に、クラスの出し物だ。
好きな者同士で何かするなら意見もまとまるだろうけれど、人数が多いせいか中々まとまらなかった。
結局クラスのムードメーカー数人がクラス委員も学祭実行委員も差し置いてまとめてしまったのが『カフェ』だった。
ベタだなと思わなくもなかったけれど、とにかく無事に決まった事の方が重要で。
まとめにかかったクラスの中心的な人達の一人が、目の前の柴門君だった。
この時点では別に何もない。
私たちは同じ教室で授業を受ける以外に接点の無い人間だった。
接点が出来たのは、カフェにどう特色を付けるかという話題が出た時だった。
それで、ジャズバーみたいにロックカフェってのはどうだという話になった。
中心メンバーに軽音部の子が1人いたのと、
私は知らなかったけれど、柴門君が不真面目に――と、本人が言っていた――バンド活動中だからみたいだった。
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