第1章・桜の季節に

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「かっこいい…」 一年生の教室のある一階を歩くと、新入生たちの視線を感じた。 「ううん!やっぱり有名人なんだな!困ったなあ!」 隣を歩いていた未歩が、先頭を切り、胸を張って歩き出した。 確かに、未歩は今時ギャルな風貌と裏腹に、長距離走で県内トップレベルの実力を持つ選手だ。でも、今、注目を浴びてるのは未歩じゃないだろう。 「さすが、生徒会長様だ。さっきの新入生歓迎会も決まってたもん」 ずんずんと歩く未歩を無視して、芳華が言った。 「別にあたし、カッコつけてるわけじゃないし」 香坂真樹。この西高の生徒会長。 あたしが目立つ、とかではなく、たったさっき、生徒会長挨拶を披露したのだ。部活動に入る前の新入生にとって、初めて認識した「先輩」なのだ。注目されるのも、自然なのかもしれない。 「そんなことよりさ、二人とも髪の毛明るい。違反者のいる部活は勧誘禁止にするよ」 未歩と芳華は、あたしたち3年生のなかで一番やんちゃな部類の生徒だ。「厳しいなあ…」「このくらいいいじゃん」と口々に言うだけで、直す素振りは見せないのだが、それでも根は真面目だから憎めない。 「じゃあ、茶道部こっちだから。またね」と、芳華が手を振った。 「またね!」「陸上部も負けないよ」 茶道室を過ぎ、昇降口まで来ると、見学に向かう新入生と、部の宣伝をする上級生で溢れてた。 「うわ!いっぱいいるね」 未歩は嬉しそうに下駄箱へ向かう。 生徒たちの間をすり抜けながら外まででるも、中庭までに人だかりができていた。 「全員グラウンドに連れてくぞ!」 張り切る未歩を横目に、校門の方に目を移す。 駐車場の方にもまだいないようだから、珍しいな、遅れているようだ。 「なに、新学期早々王子様のお迎え?」 「まあね」 おどけたように尋ねた未歩に、ふざけて返事する。 まあ、王子みたいなもの…かもしれない。 と、考えていたところで、校門に一台の車がやってくるのが見えた。 「じゃあ未歩、勧誘頑張って」 「ありがと。またね」 校門をくぐった車の方へ向かう。 寂れた校舎と明らかに不釣り合いのピカピカの外車は、案の定生徒たちの視線を奪った。 ぴったりと、あたしの前で駐車し、運転手が降りてくる。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!