第1章・桜の季節に

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「今日は随分とギャラリーが多かったみたいだけど」 運転席から、和哉が尋ねた。 「新入生ね。今日の午後は部活動見学だから」 「ああ。だから、こんなに下校が早いのか」 春休み前は、授業のあと、生徒会活動が終わってから下校だった。 その時間なら和哉も仕事を終えているだろう、ということでお迎えを頼んでいた。 今日は昼間のお迎えだが、二つ返事でOKしてくれた。 そういえば、今日は会社はいいのだろうか。 そう和哉に聞いてみるが、会社の話を振ると、決まって機嫌が悪くなる。 「別にいいんじゃない?半分俺の会社だし」 そう言って、彼は顔をしかめた。 いつも、適当にあしらうけれど、なんだかんだ、しっかり仕事はこなしている、らしい。 和哉が勤めているのは、彼の曽祖父の代から続く大企業だ。 本人があまり語りたがらないので、詳しいことはわからないが。 だからあたしも、少しふざけて言う。 「そうでしたね!跡取り息子!御曹司!」 ハハっと笑い飛ばし、和哉が話題を変えた。 「まだ帰らないでしょ?どこ行きたい?」 とくに希望もないので、お任せしよう。 「和哉の行きたいとこ」 「可愛いこというじゃん。じゃあ、今度の会議のためにネクタイ選んでよ」 そう言うと、なんだか楽しそうにハンドルを切った。 その右手に光る指輪を見て
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