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黙念は濡れた手をタオルで拭い振り向いてお辞儀をする。
「うむ」
住職は一度立ち去ろうとしたが足を止めて天を仰いで考え込み振り向いた。
「もう一つ済まぬが学問の方は中止じゃ良いか?」
黙念は住職の言葉にコクりと頷く。
黙念は十五才で義務教育上、中学校へ通わなければならないのだが教員免許を取得している住職の元で勉強をしていた。
「済まぬなぁ~」
住職の言葉に大丈夫ですと言わんばかりに首を降った。
「花見家のお通夜とお葬式が終わったら再開するから許しておくれ」
住職は白髪の長いアゴ髭をなぞりながらもう一言付け加えて去って言った。
黙念は住職の姿が見えなくなるまでお辞儀をすると天を仰いで自分はこれから何をしなければいけないのか手順を思い浮かべる。
慌ただしい1日の幕開けだ。
お昼近くになってくるとわずかではあるが人がやって来た亡くなった人が住んでいた所の町内会の人々である。
車で一時間ほどかかる隣街まで行かなければ葬儀社は無いのでこの町では町内会の人々が自主的に手伝う風習があった。
殺風景な小さな本堂に祭壇等が置かれ始めて行く黙念も町内会の人々に混じりお手伝いをする。
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