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 大友は、 大友グループ合同入社式の開催されるY市文化ホールに向かう車の中で眠るように穏やかに目を瞑っていた。 いつもの車中と違っていたのは隣に土師と名乗る青年が載っていることだった。 土師はプロだった。 いや、 生まれ持っての才能かもしれない。 大友が目を閉じると完全にその気配が消えた。 大友の脳裏にはあの日が蘇っていた。 まるで昨日のことのように。  熱帯低気圧による嵐が近づいた夏の夜だった。 だんだんと激しくなる風雨に明日早朝からの漁を諦めた漁師たちは、 日の高いうちに自分たちの大切な船を早々と漁港の船溜まりに移し、 皆家に閉じこもった。 天見大吾もラジオの天気予報を聞きながら、 これ以上の荒天にならない事を願っていた。 船の事が心配だったが、 それでも習慣でいつものように八時には床に就いていた。 妻のひろみは遠い親戚の法事で一人昨日から出かけていた。 高校二年生の一人娘の優子は自分の部屋に居たが、 まだ起きているようだった。  天見の家はS県K町の海沿いに走る狭い県道沿いにあった。 道路を挟んで防波堤があったが海が荒れた波の高い大潮の日には、 低い防波堤を越えて天見の家に波しぶきが飛んできた。 勿論そんな日は、
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