第1章

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部屋に入ってリビングの明かりをつけた。  蛍光灯の強い光に、暗がりに馴れた目が眩む。  逃げるように浴室へ飛び込むと熱いシャワーを浴びた。  普段はいくら遅くなっても浴槽に浸かるのに、今日はそんな気になれない。  食欲もなく、いつも立ち寄る弁当屋にも寄らなかった。  髪を拭きながら、テレビをつけると、騒々しい効果音と共に流れてきたニュースは芸能人のだれそれが結婚した話だった。  テレビもそれか、と松浦は眉をしかめた。  昨日、白井から『早く恋人でも作れば?』と言われた。  最近仕事、仕事でこういう話題は久しぶりで何となく自分の中で引っ掛かっていた。  画面を見ながら改めて自分が沈んでいる理由はこれかと気がついてため息が出る。  もう30も過ぎた。  今までいないのか、と聞かれる事はあったけど作れと言われた事はなかったように思う。周りにそう言われる年になったのかもしれない。  そのうち、結婚しろ、見合しろと言われるんだろうか。 いや、そんなことは無い筈。  ぐいっと口に流し込んだ炭酸が舌をチリチリと刺激する。  つけっぱなしにしていたテレビがニュースからバラエティに変わった。  笑い声が大きくて手にしたリモコンで音量の?を押す。  最近接触が悪くてなかなか下がらず結局電源を落とした。  自分に結婚なんて出来るんだろうか?  光の消えた画面をぼんやりと見つめながら思う。  出来ないと思っても万が一母親に勧められでもしたらきっと自分はするんだろう。  松浦は母親の厳しい横顔を思い出し、目を足元に落とした。  
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