第1章

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 松浦の母親は実家の事情で高校を卒業すると夜の仕事をしていたらしい。  もちろん父母から聞いた話ではない、父親の親戚筋に口の軽いおばさん方が多数いて、ひそひそと話していたのを聞いた。  学のない母親にとって、名家の父親との結婚は周りに始終冷たい目を向けられるものだった。  母親にとって子育ては楽しむものではなく、成績表のようなものだったんじゃないだろうか。  今思うとそんな気がする。子供は無条件に母親が好きなのだ、松浦もひそひそと陰口を叩かれる母親が可哀想で、悔しかった。  何より母親に認められ、母親の為になることしたい、そんな自分になりたいと思った。  人より出来なければならない、でないと家の恥になる、それが口癖の母親は末っ子の松浦も甘やかすことはなかった。  兄二人は常に成績はトッブクラスだった。しかも二人は小学生の頃始めた空手で全国大会へ進めるほど強かった。兄達は母親を多いに満足させた。  松浦は、運動こそ普通か、それ以下だったが成績は良かった。  松浦自身、母親の合格ラインは越えていたように思う。  中学の頃までは。    不安に駆られ松浦は立ち上がると持っていた炭酸を冷蔵庫になおしてビールの缶を取り出した。  白井にちょっと言われただけなのに、明日にでも実家から電話がありそうな気がしてならない。  立ったままプルトップを開けてごくごくと飲めるだけ口に流し込んだ。
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