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ああ、首だ。
記憶の彼はもっと細い。
目の前の人物は太くて長い首。
松浦がうなじに釘付けになっていると不意に男はうなじを掻いた。
視線を遮るような手に、思わずじっと見ていたのがバレたような気になった松浦は、誤って資料を落としてしまった。
しゃがみこみ慌てて拾う。
(……見とれて落とすなんて…)
顔がじわりと赤くなる。
前の男は紙の散らばる音に振り返り、座り込み資料を拾う手伝いをしてくれた。ちらっと上目で見る顔は俯いていてよく分からない。 床に落ちている資料が無くなると松浦と前の男は立ち上がった。
真正面に立った男はにっこりと笑い手にした資料を差し出してきた。
頭一つは高い所にある顔は、思い出の彼より鼻梁が高く、薄めの唇。目許は切れ長で繊細そうな印象だ。
でも笑うと目尻が下がり綺麗すぎる顔が優しくなった。
どどど、と胸が騒ぐ。
かぁっと顔が熱くなる。
喉がからからになって、
「あ、ありがとう」
と掠れた声を絞り出した。目の前の彼はそんな松浦へ笑みを深くし、「気を付けてね」と肩を叩いた。
童顔だと言われる顔が同年代に見えたのだろう。
すぐに扉が開き、彼は足早に行ってしまった。
ぼうっと背中を見詰める。
松浦は二度目の恋に落ちた。
彼の名前は宮倉和敏。
海外事業部の人間だった。
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