第1章

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 もう自分からそんな感情は消えたものだと思っていたから驚きだった。  確かに後ろ姿は似ていた。でも顔は似ても似つかない。  宮倉の方が、記憶の、高校生の彼よりずっと色気のある顔立ちだった。  思い出すだけでかぁっと顔が熱くなる。  久々に感じた高揚は自分の中で爆発的に膨らんでいった。  普通じゃない性癖に苦しんで押し殺して、あんなに嫌悪していた筈なのに、この熱さに痺れた。  彼に会いたいと思った。  その前の、たった一度の恋は顔を上げればすぐそこに思い人がいた。  三年間同じクラスだったから。  今は同じ社とはいえフロアが違うと顔を合わせることがない。  二、三カ月に一度、一階ですれ違う。  その程度の接触。  宮倉は松浦を覚えてはいないようですれ違っても目すら合わない。  それでも自分の目にあの男が写るだけで良い。  初恋の彼には、同じクラスだったのに一言も話しかけることが出来なかった。心中にやましい感情を隠している自分でも挨拶程度なら許されるだろうと、何度も何度も頭で「おはよう」と彼に笑いかける。  何度も何度も。  でも一度として出来た試しがなかった。  教室で座っている彼が振り返った一瞬目が合う、その程度の事だけで松浦の顔は紅潮し、心臓は周囲三メートルの人間には絶対聞こえているだろうと思うほどドックンドックンと鳴り響く。  そんな情けない自分を振り返ると話し掛けるなんて自殺行為だと思い直し諦めた。  話してみたい、と思うよりも気持ちを誰にも知られたくない方が強い。それは昔も今も変わりない。  自分は分かりやすい人間だと初恋で自覚した松浦にはこの『見ているだけ』の距離がちょうど良い。  松浦には仕事しかない。  どうせ密かに思うだけの恋情。  それで足許の、自分を唯一支えるものを壊したくなかった。  とはいえ見たい。  接触は嫌だけれど、眺めたかった。
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