第1章

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   半年懸かりで宮倉の出社ペースを独自に調査し、宮倉が電車を利用していることを知った。  最寄駅から社までは徒歩。松浦は毎朝駅へ寄り、宮倉の、あの背中を見ながら歩く。  幸せだ。  後ろ姿でこんなにも人を幸せに出来る宮倉は凄いなぁなんて思いながら歩く。  雨でも、台風でも。  本当は家まで調べたい所なのだけれど、知ってしまったら張り込みそうな自分が怖くて止めた。  男が男を思うなんておかしいといまも思っているのに、彼見たさの心が止まらない。  駅から十分の道のりでも色々とある。  宮倉が空を仰げば自分も仰いでみる。  何を見たんだろう。何てことない、普通の空だった。何を見たの?何が見たかったの?  心の中で話しかけてみるけれど返事はあるわけもない。  それで良い。  秋のある日、宮倉は歩きながら下を向いた。  何があるのか気になったけど人が邪魔で見えない。  宮倉が下を向いた辺りに差し掛かるとそこには街路樹の落葉が散らばっていて踏むとぱりぱりと音がたつ。  ああ、これかと自分も下を向いて歩いた。  髪が伸びてきた、次の月曜には髪を切ってくるな、と思ってそれが当たると嬉しい。  新しいスーツを遠目から観察してその色は似合う、似合わないだとか勝手に査定して一人微笑む。  ただ背中を眺める朝は松浦の楽しみになった。
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