第1章

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 そんな日々が一変したのは今年の三月。  松浦は昇進の内示を受けた。  普通ならば二つ返事で受けるだろうけれど、松浦は悩んだ。  クライアントの注文に、工場の技術者と一緒になって物を作り上げていく、それが楽しくて仕方なかったから。  デスクワークだって勿論やりがいはあるだろう、でももう少し先でもいいと松浦は思った。  松浦が浅沼金属に内定した時、すでに時代は就職氷河期に突入していた。 もともと規模の大きな会社ではないし、早い時期から新卒の採用を見合わせていた浅沼金属は業務の安定と新工場の竣工に合わせて松浦の世代からまた採用を始めた。  だから松浦の上の世代は空洞だ。  そんな社の事情により順当な昇進ではあったけれど、松浦は少々気落ちしていた。  追い討ちを掛けるように松浦の課に海外事業部から移動者が一名ある事を知る。まさかと思った。  思い浮かんだのは宮倉だった。しかし今年の宮倉は確かトップセールスだった筈だ。  海外事業部から営業部への異動はいわば左遷。  松浦は思い直した。宮倉な筈がない。  しかし後輩への引き継ぎ業務に忙しくしながら、ふと胸を悪い予感が過る。  見ているだけのこの距離は壊されたくない。  しかしこういう、悪い予感ほど当たるものなのかもしれない。  四月、宮倉は階下へ異動してきた。
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