第2章

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 「坂下さんなら大丈夫でしょ?」  「そうだよ、かわいいかわいい」  からかうように言った山下をバックミラーで見ると楽しそうな瀬戸と山下の隣で宮倉は窓に顔を向け面白くなさそうにしている。  (……強制参加じゃないのに、どうして来たんだろう?)  松浦は密かに宮倉が参加をキャンセルするのではないかと思っていた。  強制参加ではない上、一週間前までキャンセルが出来るので、日頃の様子からこういう付き合いが得意ではないと思われる宮倉は絶対に断ってくると踏んでいた。松浦は断って欲しかった。ただ話をする事、それだけでも極度に緊張するのに同じ部屋なんて……。  眠れる筈がない。  宴会場で雑魚寝も覚悟してはいるが自分でもお坊っちゃん育ちの自覚がある松浦は、布団もない畳ではきっと眠れない。  出来れば布団で寝たい。  まあしょうがない事だけれど。  そう、宮倉が悪いわけではない。  すべては想いに振り回される、自分が悪い。  (……いけない。今日はとにかく、普通にしよう、普通に。同じ課の人間なんだから)  これからの行動に思考を巡らせているうちに考え過ぎて『普通』が分からなくなってきた。  額が熱くなって頭痛がする、もう考えるのを止めた。だんだんと道幅が狭くなり、やたらと多いカーブで山を上っていく。  M県の端に位置する名倉山の中腹をくるりと回るように進むと、程無くS県との県境へと差し掛かる。  もう明王寺温泉郷は目と鼻の先だ。  「まだ紅葉してますね」  シーズンは過ぎたけれど、ちらほらと暗い緑の隙間から赤や黄に色付いた木々が頭を出している。  坂下が窓に顔を向けてうっすら微笑んでいる。  「そうだね」  外は気持ちが良さそうだ。車の中は人数が多いせいか暑くなってきた。  窓でも開けるかなと思った時、もう正面に今日の宿、山水館が見えてきた。  大きな看板の出ている角の、緩やかな坂を上がったところに山水館はある。  
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