第2章

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 玄関の右に受付があり、その正面には知った顔がそれぞれに鍵を受け取っていた。  土間で靴を脱ぎ上がった先の左には大きな囲炉裏が鎮座し、その周りを取り囲むように長椅子が四角に組まれている。  脇に置かれた格子箪笥には民芸品の人形がたくさん並んでいて、その人形の細いタレ目に思わず顔が綻ぶ。  「あ、お疲れさまです。二部の三課ですね?」  一部三課の新人、棟森が玄関を入ってきた松浦達を見留め近づいてきた。  「ええと、……ああ、松浦課長と宮倉さんが101号室で、ええと、山下さんと瀬戸さんが302号室、坂下さんが一課の牧村さんと別館の201号室ですね」  棟森は端をホッチキスで留めた資料を捲りながら細い目を更に細め、長身を猫のように丸めながら部屋番号を読み上げた。  顔を上げると「しばらくお待ちください」と慇懃に頭を下げフロントに行ってしまった。  「牧村さんってもう着いてるの?」  「あ、うーん、」  山下が坂下に尋ねると二人してキョロキョロし始めた。  「メールしてみる?」  坂下にそう言ってみると「あ、そうだそうだ!」と携帯を取り出しぽちぽちとメールを打ち始めた。  そうこうしているうちにフロントから片手に資料、片手に鍵を持った棟森が走って戻ってきた。  「あっ、すみません、お待たせしました!!ええと、これが、あ!!」  慌てて資料を広げるものだから棟森は鍵の束を派手に落としてしまった。  あっと思った時に、落ちた鍵を拾ったのは宮倉だった。  「ああ、すみません!!」  「……持っておきます」  「え?ああ、ありがとうございますっ!!ええとまずはええと、課長に101号の鍵を……、あ、それです…ね、じゃあそれを」  宮倉の手元を見ながら鍵を探す棟森は101の鍵を見つけると、松浦に手渡した。棟森に鍵を渡す宮倉は普段の松浦に見せる無表情とは違い優しい笑顔を見せている。
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