第2章

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「松浦さん、……山下さんとも長いんですよね?」  「へ?……うん、山下が新入社員でうちの課に配属された時からだからなぁ、もう五年かなぁ」  声が裏返ってしまった。ぼそぼそと呟く宮倉はさっきと変わらず下を見ているのできっと気が付いてない。大丈夫。大丈夫。  後は馴れだ。  しかし職務上でもよそよそしい宮倉が自分について質問してくるとは思いがけず、不思議に思った。  なかなか口の中から無くならない干菓子に苦戦しながら松浦はちらっと宮倉を盗み見た。  やはり目が合わなければいいようだ。 何時もより少し長く宮倉を見る。  さっきから下ばかり見てる少し吊った目は短めの睫毛で縁取られている。  黒い短髪。  硬そうだなぁ、とぼんやり眺めていたら少し宮倉が動き、松浦は慌てて目を湯飲みに落とした。  ほんのりと松浦の頬に赤みが差す。  「そうですか」  「………」  せっかく今、少し会話が出来ている。いい流れを失いたくない。  何か話題は?  目をぱちぱちと瞬かせ、頭の中を探るが……見つからない。  「………」  仕事以外なんの話もしない二人に話題などあるわけもない。松浦は長く深く息をついた。  (………何も思い付かなかった)  「……風呂……でも行きますか?」  「………あ、うん、そうだね……」  松浦は立ち上がり引き戸を開けた。  確かここに浴衣が置いてあったような…。  開いてみるとやはりあった。  重ねられた浴衣が二枚、襟元を見るとサイズは二つとも大だった。  後ろを振り返えると宮倉は立ち上がってこっちに寄ってきていた。  「………宮倉は、大かなぁ」  「……大、ですか?」  「サイズだよ。ああちょっとそこ立ってて」  松浦は浴衣を広げると宮倉の肩に浴衣の肩の部分とを合わせる。  顔を見たら終わる。  この距離で目が合ったら死ぬ。  松浦は手元だけを見詰めた。  「ちょっとここ持って」  宮倉に浴衣の肩を押さえさせ、少し離れて長さを見る。  ただ合わせているだけなのだが脛が見える。  「大じゃ小さいなぁ。宮倉は、特大だ。やっぱり、山下も特大だったもん」  「……山下さん、ですか、」  「そうそう、去年は山下と一緒だったから。ああ、もうそれいいよ、フロントに電話しよう」
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