第2章

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 いつまでも合わせている宮倉に笑いながら受話器を取った。  3コール目でフロント係に繋がり、浴衣のサイズ変更を頼むと女性従業員がすぐ持って行くと返答があった。  「すぐ来るって。準備しようか」  「……はい。松浦さんはサイズいいんですか?」  「ん?この間、大だったからこれでいいんだ。どっちの色にしようかな……」  用意してある浴衣は渋い緑地に紺の線が入ったものと白地に紺の線が入ったものだ。  「確か去年は紺もあった筈だけどなぁ」  「…松浦さんは白がいいと思います」  「そうかな?じゃあ白にしよ……それかして」  宮倉のサイズを合わせた浴衣が白で、今は宮倉の手にある。  松浦が出した手に浴衣を渡そうとした宮倉の手が触れた。  その瞬間、松浦はびくりと震える浴衣を落としてしまった。  「っあ、あ、ごめん、」  「……いえ、大丈夫ですか?」  拾おうとする宮倉を制して松浦は浴衣を取り上げた。  身体を起こすと正面に立っている宮倉が困ったような怒ったような不思議な表情で松浦を見ている。  何か言おうと口を開こうとした時、呼鈴と共にコンコンとノックする音が聞こえ二人は同時に玄関扉へ顔を向けた。  宮倉は「あ、フロントの、」と呟きそそくさと玄関へ向かう。  (せっかく普通に出来てたのに……あれじゃあ触られて嫌だったみたいだよ……)  さっきの怒りにも見えた表情を思い返しながら、玄関へ向かう宮倉の背中に松浦はがっかりと肩を落とした。  宮倉は紺の浴衣を手に戻ってきた。  場を取り繕うように早口で話しかける。  「ああ、やっぱり紺、あったんだ。去年その色着たんだよ。山下が紺と緑と着てみろってうるさくて、部屋でファッションショーだったんだよ」  「……山下さんの前で着替えたんですか?」  「前でって……もちろんそうだよ」  「………」  怪訝な顔で口を閉ざした宮倉に首をかしげる。  何かおかしな事を言ったのだろうか?
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