第2章

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 大浴場は二階の連結部分から別館に渡り、その四階にある。  男湯と書かれた暖簾をくぐると熱気と湿気のこもる脱衣所へと続く。  スリッパを靴箱へ入れ、脱衣所へ進むとそこは無人だった。  「おぉ、貸し切りだね」  先を歩く、宮倉の背中に話す。  広い背中、浴衣もすごく似合っている。本当にかっこいい。  「……松浦さん、風邪ですか?」  ほうっとしていたら宮倉が振り返ってこちらを見ていた。  避けていた視線が重なって松浦はかあっと赤くなった。  「は?……いや、大丈夫」  「本当ですか?顔赤い」  「……寒かったからかな?……でもホント大丈夫」  「そうですか?無理しないで下さいね」  顔を覗き込むような仕草の宮倉は終始笑顔で、身体中の熱が上がる。  逃げるように顔を背けた松浦は宮倉から離れた籠に荷物を入れた。  のろのろと服を脱いでいく。  ここへきて、俄然緊張してきた。  風呂は裸だ。  裸なのだ。  背中だけを追っていた日々とは違いこの八ヶ月近く、松浦は身近で宮倉を盗み見てきた。  お陰でそれまで知り得なかった表情の変化も頭に記憶せてある。  それが事もあろうに夜、欲を満たす最中に出てくる。今までの蓄積された脳内データから宮倉のいやらしく歪んだ顔を想像する。  そしてあんな事やこんな事を…、そう思っただけでいってしまう。  想像するだけで自分を早漏野郎にしてしまう宮倉が、いや違う、想像の宮倉じゃない、実体の宮倉がつい左横で裸になるのだ。  ああ、もうやばい。いろいろやばい。  「じゃあ、先に入ります」  今日聞いた中で一番明るい声が左からかかる。  松浦はびくりと肩を竦め、「あ、うん」と力なく答えた。  とにかく静めなければ風呂には入れない。  早く静まれ、早く静まれ、と心の中で唱えた。  誰もいない脱衣所の、上着だけを入れた籠の端を握り松浦は繰り返し次の会議について、や、瀬戸が取ってきたセルディックの行程等仕事について考えた。  「お、課長!!やっぱここでしたか?。さっき部屋に寄ったんですよぉ、いなかったからここかなって!!」  ハイテンションな声が背中にぶち当たる。  今の松浦には神々しくさえ聞こえるそれは瀬戸だった。
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