第2章

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 「せ、せと!」  振り向き様、神に抱き付いた。  「な、なんすか!え、どうしたんすか?え、え、な何?」  感激のあまり半泣きの松浦に瀬戸は背後の山下を振り返った。  「課長、瀬戸が困ってますよ!」  あははと笑いながら山下は荷物を籠に入れた。  「何か泣いてません?まじで何なんですかぁ?」  「ピ、ピンチで、」  「え、何?……あ、まさかここ、アレが出るんですか?」  「うわ、そりゃやだなぁ」  瀬戸の「アレ」が山下には分かるようだが松浦はピンとこない。  「いやぁ、課長がゴキ駄目だなんて思わなかったなぁ、ほら着替えますよ!人がいると出てきませんって、」  瀬戸に頭をぽんぽんと触られて松浦は今の状況に思い至った。  どうしよう、なかなか気が静まらないからもう10分、いや15分はここにいる。  早く入らないと不審に思われてしまう。  「あ、いや、本当にごめん。む、虫が苦手で……。さあ、入ろうか、入ろうね、」  調子を合わせて松浦も脱ぎ始める。  部屋や浴衣の話に花が咲いている山下と瀬戸の声を聞きながら、二人に気づかれないようにほっと息をついた。  宮倉が上がってくるまで風呂に入れなかったらそれこそお笑いだ。  二人が来てくれて、本当によかった。  山下を先頭に三人で浴室へと入った。  大浴場は入って右手に御影石のような黒く光る広い浴槽があり、そのガラス張りの窓からは雄大な山々が見える。  浴槽に後ろ姿の人が。  あの肩幅は間違いなく宮倉だ。  でも松浦は気づかなかったことにした。気が付いていい事など一つもない。  「おぉー、いい眺め!」  瀬戸が大浴場のど真ん中でううんと伸びをする。  手にタオルを持っているから向こう側からは丸見えだろうな?、と思いながら端にある洗い場で松浦はゆっくりと顔を洗った。  もし瀬戸の悩殺されないバックショットがばっちこいのフロントアングルだったら自分は興奮したんだろうか。  頭をごしごしと洗いながら想像してみた。  ……ピンとこない。  やっぱり自分は宮倉じゃないと駄目だ。
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