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ゆっくりゆっくり洗う。
この間に宮倉が出てくれないかな、と思う。
丁寧すぎるほど丹念に洗っている間に山下、瀬戸も湯に浸かり三人和やかに話している。
もうどこも洗うところがない……。
端っこから静かに、目立たないようにこそっと湯に浸かる。
最大限の努力をしても今現在大浴場はうちの課の貸し切りで何をしてもバレてしまうのだけれども。
真っ先にガラス窓に近付いた。
窓の下にある石に肘を掛け外を眺めれば、圧倒的な解放感。
去年訪れた時、こうやって外をゆっくり眺めた覚えがない。
(ああ、暮れてから入ったから見てないんだ。そうそう、部屋に着いてずっと山下と喋ってたからなぁ……)
しっとりと肌に纏わりつく湯を掬い落とし掬い落としながらまたふっとため息が出る。
(すっごく気持ちがいいけどやっぱり緊張する……。同じ風呂に宮倉が、宮倉が…あ、いや、考えちゃいけない、いけないぞ!)
いけない……と思いつつもどうしても意識してしまい湯気に包まれた頬は赤く染まる。
頭の中を切り替えようと窓に目を移す。
茜色の空が暗くくすんだ木々の向こうに広がっていた。
(あー、きれー…)
「課長、マジ遅いっす!」
すーっと寄ってきた瀬戸が横に座る。
「瀬戸が早いんじゃないの?」
「ええ!?あんまり洗いすぎると皮膚荒れますよ、せっかくのぷるぷる肌が」
「ぷ、ぷる?……まあそんな事よりせっかくだから大自然を満喫して、」
「えー、ガラス越しでしょー?」
そう言うと瀬戸は外に目を向けた。
「いや、やっぱいいっすね」
「そうだろ!!」
にっこり笑って瀬戸を見ると瀬戸は眉間にシワを寄せた。
「課長、もー上がったがいいんじゃないですか?顔真っ赤っかですよ」
「えー、そう?今入ったばっかりなんだけど、」
「ああ、本当だ」
反対側から寄ってきた山下も瀬戸の言葉を聞いて松浦の隣に座る。
「頬……だけじゃなくて顔全体赤いですよ。しかし本当にい?い眺めだなぁ!!」
窓に向かって座る松浦の横で山下も身体を伸ばしながら外に目を向けた。
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