第2章

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 全く必要は無いけれど、松浦も一緒に聞いた。  うんうんと頷いてみる。  「そうですよね?」と聞かれると「そうだね」と答える。もうこういう擬態も慣れた。  ある程度は付き合わないと変な目で見られる……ような気がする。  偽りの彼女までいたことがある。あれは一年前、ぐらいだったかな?  普通でいることに、少し苦労する。でもそれで今が買えるなら嘘も方便かと思う。  たまに疲れるけれど。  でも以前に比べると今は心のオアシスがあるからいい。  あの背中があるから。  ちらっと宮倉を見ると、思いがけず宮倉はこっちを見ていた。  軽蔑したような、馬鹿にしたような冷たい目だった。  (え……、なに……?)  ごくんと喉が鳴る。  身体はほかほかに温まってる筈なのに松浦の真ん中が冷たくなる。  明らかに悪意のある視線に松浦はゆっくり目を反らした。  (なに、なにが、なんかあったかな?)  自分は何かしたのだろうか?  考えても分からなかった。  「そろそろ出ませんか?」  宮倉が山下に向けて言う。  「ああ、そうだね、んじゃ出ますか?」  聞かれて松浦は小さく頷いた。  皆の後ろをついて風呂から上がる。  ぐるぐると、あの目が頭を回る。  脱衣所にはもうちらほらと客が訪れていた。  何事か喋りながらゆっくり着替える三人の横で松浦はさっさと浴衣を身に纏う。  入り口近くの壁には大きな鏡が嵌め込まれ、その前には四つ並んだ洗面台に四つのドライヤーが用意されていた。  早々に着替えを終えた松浦は鏡の前の、一番右端の椅子に腰をかけ目の前のドライヤーを手に取った。  温かい風が髪を揺らす。  しゅーと空を舞いながら中身を吐き出し萎んで地に落ちた風船みたいに気持ちが一気に沈んだ。  今楽しそうに三人で話しているからあの視線はやはり自分に向けられたものだ。  考えても、何が不愉快だったのか分からない。  大きい鏡には驚くほど赤くなった自分の顔が映る。  夏どんなに外に出てても焼けない、白い肌が赤い。
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