第2章

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 (……ゆでダコみたい)  頬をぐにっとつねってみる。  とりたてて特徴のない顔。目は小さくも大きくもなく、口も鼻も然り。  この平凡な顔を馬鹿にした視線だったのならまだいいのに。  (……きっと違うんだろうなぁ)  そういうのとは種類が違う視線だった。  松浦は改めて鏡に映る自分の顔を確認し、はぁっと大きなため息をついた。  (何だったんだろう?実際、)  ドライヤーを掛けていると後ろからトンと肩を叩かれた。  「よぉ!もー入ったの?早いなぁ唯人」  「あー、もうぐちゃぐちゃになったじゃないか」  鏡越しに見えたのは笑顔の白井だった。  頭をぐちゃぐちゃと掻き回される。  白井はいつも目を弓なりに細めからからと笑う。  年は同じなのに何故か近くにいると安心する。  止めろといいながら頭を撫で回す手がなんだか気持ちいい。  「なーんだ唯人、真っ赤じゃん。かっわいいなぁ」  ぐちゃぐちゃと撫で回してきた手がいよいよ激しくなってきたから止めようと白井の腕を握る。  真後ろにいる白井にぐくっと仰け反って頭頂が胸に着いた。  「もーやめてよ、課長になったくせに本当変わんないな、子供みたい」  「何だとぉ?唯人のくせに」  「にゃにすんだぁ!」  真上の顔がフニャリと崩れて両手が頬に伸びてきた。伸びた手が頬をグリグリとつねる。  「何してるんですか?行きますよ」  白井の後ろに浴衣姿の宮倉が立っていた。  苛立たしさを滲ませた声が響く。  顔も怒ってるよう。  慌てて白井の胸から頭を起こした。  「あ………、じゃあ白井、また後で」  ドライヤーを元に戻し、籠の荷物を取りに立ち上がった。  他の課とはいえ上司にあたる白井に軽く会釈した宮倉は松浦に険のある視線を飛ばす。  宮倉の、風呂から上がったばかりで熱い筈の身体から氷のような冷気が感じられて松浦は喉の乾きを覚えた。  (更に機嫌が悪くなってる……騒いでたからか?)  そこまでのモラリストとは知らなかった。  すっと目を細めた宮倉は背を向けて一人すたすたと暖簾をくぐる。  背中に白井の「おー、後でなぁ?!」と間の抜けたような声を聞きながら松浦は宮倉を追った。
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