第2章

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 急ぎ足で暖簾をくぐると宮倉は横の壁にもたれて待っていた。  「あ、」  「………」  無言で背中を正し横を歩く宮倉は顔を背けるように廊下の窓を見ている。  嫌な沈黙が続く。  松浦は、横をちらりと伺う。  向こうもちらちら見ていて目が合うのに反らされる。松浦は歩を緩めてじわじわと後ろへ下がった。  正面や横顔は馴れなくて緊張もするし、このように機嫌が悪いと恐ろしくなる。  でも約三年見続けた背中は目に入るとほっとするし胸に甘い疼きが広がる。  この距離が好きだ。  目も合わず、話もしない、触ることも叶わない、一方的に見るだけ、それだけ開いたこの距離が松浦を安心させる。  「白、………」  言いかけた言葉と共に横を向いた宮倉は隣に松浦がいない事に気がついていなかったようだった。  慌てた様子で後ろを振り返ると宮倉は眉を潜めた。  「白?何?」  後ろから尋ねる。  背中にだったら、するっと言葉が出る。  「………良く似合ってますね」  ふいと正面を向いた宮倉が呟くように言うから聞き取り辛かった。でもちゃんと聞こえた。  背中の向こうで、宮倉がどんな顔をしてるんだろう、見たい、と思った。  顔を見たいと思ったのは、初めてかもしれない。  「…………あ、ありがとう」  前を行く男はこちらを見る事なく頷く。  (……あ、耳が赤い)  言って照れてるような宮倉に松浦は後ろで頬を染めた。  選んでくれて、誉めてくれた。  きっと同室が瀬戸でも宮倉は同じ状況なら同じ様にするんだろう、と思う。  自分が特別じゃない事は分かっているけれど心は浮き立つ。  小さい頃手伝いをして貰ったご褒美の、砂糖菓子のように甘い言葉だった。  松浦は浴衣の襟元を引っ張って眺めた。  本当に似合っているのだろうか?  社交辞令だろうか?  鏡でちゃんと見ればよかった。
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