第2章

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 宮倉が突然立ち止まったので危うく松浦はぶつかりそうになった。  あの背中に、約10センチ。  息が止まった。  そろそろと見上げると、物凄く不機嫌そうな面構えの宮倉が見下ろしている。  「そこ、おかしいです」  「……え?」  宮倉は松浦の襟元を指差した。  見ると引っ張った襟がたわんで乱れている。  「あ、うん、」  目の前で見られている。  注意したんだからもう前を向いて行って欲しいと思う、が、宮倉は動こうとしない。  浴衣を直そうとするのだけれど、着なれてない上至近距離で見られている緊張で襟元に突っ込んだ腕が余計前を乱してしまった。  「……あ、あれ?」  たわんだ衿を直そうと帯の下から引くとだんだんと前袷が浅くなり直せば直すほど前が開いてきた。  四苦八苦している松浦の前で宮倉は大きくため息をついた。  「なんでこんなになるんだ?」ぼそっと呟いた宮倉に松浦はまた焦る。  しかし慌てれば慌てるほど浴衣を引っ張っり帯まで緩んできた。  小さい舌打ちが聞こえて血の気が失せた松浦に宮倉の手が伸びた。  俯けた視界に宮倉の指が入って松浦の手が止まる。  なんだろう?と思っていると手の行き先は引っ張って乱れた襟元だった。  手が近付くと、身体も近くなり顔は鼻の少し先に来た。  ガチガチに固まった松浦の浴衣を実に鮮やかな手つきで直した。  松浦は太くて長い指が襟元に滑るように入り、帯を軽く緩めると襟足の抜けをさっさっと整え、前をしっかりと合わせまた絞める一連の所作をじっと見ていた。  「ここ、引っ張らないようにしてください。だらしなく見えますから」  さっき引っ張りすぎてたわんだ襟の部分をつんと指を指す。  息を止めたまま松浦は目線を上げずコクコクと首を縦に振った。  うんと頷いた宮倉は前を向き歩き出した。
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