第2章

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 きっちり着付けられた胸元に手を置き、離れていく背中を見て松浦は大きく息を付いた。  全身に入っていた力が一気に抜ける。  (さ、触った、ここ、)  一瞬肌に触れた指の感触がまだ抜けない。  (し、心臓に悪い)  さっきからうるさい胸の音に気がつかれなかっただろうか?  知られたら困る。絶対に知られたくない。  久し振りに訪れた恋も見ているだけで十分。  宮倉との間にある境界線を越えて行こうとも、越えてきて欲しいとも思わない。  胸に秘め、一人恋心を愛でるだけでいい、大事に大事に持っていられればいい。  だからこうやって触れあう距離は松浦を困惑させる。  宮倉に出会うまで生絲に包まれた繭のように自分の一部にぐるぐると糸を巻き付け意識の奥深くに沈めてきた。  とうに捨てた叶うことのない甘い願望まで思い出してしまいそうで、距離が近いと困ってしまう。  そんな自分に感じる一抹の寂しさも早く捨て去りたい。  遠くなる背中をぼんやり見ていた松浦はふと我に返り早足で宮倉の後を追った。
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