第2章

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   顎に力を入れるとガリッと飴の割れる音がした。  「おぉ、」  ちょっと歯が痛い、と思いながらガリガリと口の中の飴を崩していく。  棒をゴミ箱に投げ入れ、立ち上がった松浦を「松浦さん浴衣、」と眉をひそめた宮倉が指差した。  「あ、また、」  また、前袷がずれている。今度こそ、と松浦はさっきの宮倉を思い出して浴衣の帯を緩めた。  手付きを思い出し同じようにやってみる。  袷を直し帯を絞める、思った以上に良く出来た。  視線を前へ戻すと宮倉が寄ってきて松浦は一歩後ずさった。  心臓と連動して身体もびくんと反応する。  正面に立つと宮倉は襟元を少し直しうんと頷いた。  「母が着付けを教えているので気になるんです」  言い訳めいた口調で宮倉が言うのを松浦は頷いて返した。  どきんどきんと跳ねる胸が収まらない。  また無意識に息を詰めていたので、横を通り過ぎた宮倉がテレビを消す背中を見て松浦はやっと呼吸を始めた。  また一つ宮倉を知った。  部屋を出て、宮倉が扉の鍵を閉める。  部屋の中は暖かかったのだけど、空調が入れてあるにも関わらずやはり廊下はひやりとする。  「ああ、結構寒いね。鍵貸して?半纏着ていくから」  「そうですね、急に寒くなりましたね」  扉を開けた宮倉に「ちょっと待ってて」と言いながら部屋に入り、納戸の中にある中綿入りの半纏を取り出してまた玄関口に戻った。  「はい」  「……ありがとうございます」  手にした半纏を見ながら差し出す松浦からそれを受け取った宮倉はすぐに袖を通す。  半纏を着てもかっこいいなんて…… 背中にため息が出る。  顔も良く、  背も高く、  仕事の仕方は少々強引だけどウチの課では一番数字を上げている、  スタイルもいい、  浴衣も似合う……  宮倉は隙がない。  そういえば浮いた噂を聞かない。振った話なら聞いたことがあるけれど。  長く付き合っている人がいるのだろうか?  好きな人でも?  まさかゲイ……、いやそれはない。だってメイド服を着て欲しいって言ってた。  その宮倉を思い出してまた松浦は肩を落とした。
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