第3章

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山下の隣に宮倉がすでに座っていて、その隣の空いた席に座る。  松浦が席に着いたのを見届けて、  「ええ、それでは皆さんお揃いのようですのでまずは営業第一部長よりご挨拶と乾杯の音頭を……、はい、あ、……よろしくお願いします!」  今回仕切りの一部二課の棟森が顔を赤くしながら話始めた。  待たせていた事に気が付かなかった松浦は宮倉に身体を寄せ「ありがとう」と囁いた。  宮倉は松浦を一瞥すると無言で小さく頷いた。  長い長い一部部長の話が終わり、皆がグラスを掲げると乾杯の掛け声がかかる。  「乾杯!!」  それぞれが一斉に口火を切り、会場はざわざわと騒がしくなる。  「やっぱ長かったですね?!」  「瀬戸。声大きい」  山下の手刀が瀬戸の頭頂に落ちる。  「……ぐぅっっ、あ、あざーすっ」  涙ぐんでる瀬戸に涼しい顔の山下、その隣で淡々と食べる宮倉。  やり取りを笑いながら見ていた松浦がビールを飲み干すと、隣の宮倉が眉をひそめた。  「大丈夫ですか?一気なんて、」  「うん、このくらいは大丈夫。最悪隣まで行き着けばいいんだから」  気にかけてくれた事が嬉しくて緩んだ顔でグラスを揺らした。  「……そうですか」  変わらず渋面の宮倉だけど、なんとか会話になっている事が松浦には嬉しかった。グラスを煽りながら箸を進めていると、坂下が少々赤い顔してやって来た。  「あ、珍しい!というよりここでしか飲んでる課長見た事ない!」  少々呂律が怪しい……と思ったら坂下はなんと片手に銚子を持っていた。  「まあまあ課長!オヒトツ……」  坂下は松浦の前にすとんと座り、もう片手の猪口を松浦の膳にちょんと置いた。  「ちょっと、日本酒は……」  隣の宮倉が焦ったように坂下を見る。  「あー、ええっと、一杯くらいなら大丈夫だから、」  「…面倒は見ませんよ」  「あ、うん、大丈夫、」  ぼそっと言う宮倉に松浦は苦笑した。  (そりゃそうだよな、酔っぱらったら必然的に宮倉が世話役だもんなぁ……)  心配して言ってくれてると一瞬でも思った自分が少々哀れで「一杯注いでくれる?」と急いで坂下に猪口をつき出した。  
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