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「じゃあ少しだけ注ぎますね!」
猪口の半分辺りまで酒を注ぐ、その口から流れる酒を見ながら何がなんでも酔わないぞ、と松浦は心に誓った。
「どうぞどうぞ!」
「じゃあいただきます、」
くっと喉に流れ込んだ酒は、甘く濃い。
「それかして!」
松浦は膳に伏せてあったお猪口を表にして坂下の銚子の、もう残り少ない酒を注いだ。
「ほい、坂下もどうぞ」
「いただきまーす!」
坂下も杯を煽る。
「あんまり飛ばすなよ?吐くよ?」
「……うう、課長!分かってるんですけどね、私、あっちの先輩方がたがたがたからすっごいプレッシャーかけられてて、」
あっちと、人に見えないように指差した方向はさっき坂下の座っていた各課の女性陣の席だ。
「何?プレッシャーって?」
「ほらうちの課ってわが社のイケメンツートップが揃ってるじゃないですか?……連れてこいって怖いんです!」
口をへの字に曲げた坂下はささっと横にずれ、山下と宮倉の間に座って胸の前で手を合わせた。
「お願いです!山下さん、宮倉さん!付いてきてくれませんか?」
「へ?」
「……俺ですか?」
「なっ!!お、俺は?」
「……ごめん瀬戸くんは連れてきてって頼まれてない」
えぇ??、と悲壮な声をあげる瀬戸を無視して坂下は山下と宮倉に更に泣きつく。
「今回は山下さんだけでなく宮倉さんまで揃ったから受付やら秘書課やら人事、総務、工場の眞壁さん達まで今日行きたいってブーブー言ってたんですよ!私、どこ行っても妬まれるし……イケメン税、払ってもらいます!」
言いながらどんどん語調が強くなり、最後は胸を張った坂下はしたたかに酔っているようだ。
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