第3章

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 さっきまで酒のせいでくらくらしていた頭が冷めた。  山下は自分よりも年下で万が一可愛がられたとしても嬉しいはずがない、でもひっかかるのはそこだけじゃない。  松浦はにじにじと身体を瀬戸に寄せ口を耳に近付けた。  内緒話をするように両手で耳を囲う。  「や、山下が好きなの?」  なるべく他人に聞かれないように松浦は身を寄せて囁いた。  可愛がって欲しいってそういう意味にしか考えられない。  君塚さんを狙っていると言っていたけど、それは嘘だったんじゃないのか?  自分みたいに。  今まで周りにはそういう人はいなかったけど、もし瀬戸がそうなら嬉しいかもしれない。悩みを共有できるかも……  瀬戸の身体はびくりとひきつらせ少し松浦と距離をとってゆっくり顔を松浦に向けた。  「もーなんなんっすか、その顔!ホモみたいに言わないでくださいよ!」  「や、……僕は別に、」  うろんな顔つきの瀬戸は松浦を一瞥し、はぁーと大げさにため息をついた。  「仕事の先輩としてっすよ。一番身近な先輩なんで。山下さん、仕事できるし」  ぐっと空けた猪口に酒を注ぎながら瀬戸は真剣に「仕事、出来るようになりたいんで、」と呟いた。  ホモみたい……ざっくり斬られた胸の痛みを気がつかれないように「なんだ、びっくりしたよ!」と笑って見せた。  「瀬戸だって頑張ってるよ、」  瀬戸の真摯な目付きの横顔を見ながら松浦は子細な事でいちいち傷付く自分に少し苛立った。  何も感じなくなればいいのに、と思う。  
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