第3章

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 「おーい、瀬戸!悪いけどてぇかして!部長つぶれた!」  「おお!!わかった!……課長、ちょっと行ってきます!」  遠くから瀬戸に声を掛けてきたのは瀬戸と同期の一部二課の長門だ。  「うん、頑張って、」  結構飲んでいたのに瀬戸はすっと立って行ってしまった。  呼ばれた方へ急ぐ瀬戸の背中をぼんやり見詰める。  瀬戸はまだしゃきっとしてる。自分は頭がほやんとするしずきずきもする。  (瀬戸は若いからだよなぁ……)  白井に何度も釘を刺され普段は禁酒している。  『唯人は飲むとベタベタしてくる』  自分では誰かにベタベタした覚えはない。  瀬戸と長門が泥酔した一部部長を肩に抱え運ぶ姿を見ながらぼんやりと炊き合わせの牛蒡を口に入れる。  (仕事出来る先輩か……)  やっぱり仕事だ。  男は仕事……。  仕事さえ、ちゃんと出来ればいいんだ。  先程から二倍は声のトーンが上がった女性陣席を見る。  興奮気味の女性に混じって仏頂面に見える宮倉はぐっとグラスを空けた。  宮倉は今までの飲み会でもビールばかり飲んでいた。 ビールが好きなんだなあと思う。  遠くから見る宮倉は本当に浴衣が似合う。  見ないようにしようと思っても目がいく。  自分には仕事がある。不本意ではあったけれど今年は役職も上がった。  いいじゃないか、それで。そう思うのに、宮倉の周りにいる女の子が羨ましい。
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